The symposium about river engineering, 2022

流域治水における土地利用規制等の施策評価に資するマクロ経済成長モデルの活用について

著者

石渡 裕明1,和田 裕行1,松田 浩一1,堀合 孝博1,平川 了治1,岡安 徹也2,岡部 真人2

1.パシフィックコンサルタンツ株式会社,2.一般財団法人国土技術研究センター 河川政策グループ

説明資料

コメント (6)
  1. 碇 正敬 より:

    新しい取り組みについて大変勉強になります。
    被害の評価に割引率4%を使用していくのはいろいろあるかと思いますが、この考え方で治水経済評価の総便益を算定する際の現時点の課題がございましたらご教授ください。(P.15に記載されている以外で)

    流域治水対策効果を講じる上での参考とさせていただければと思います。

    1. 石渡 裕明 より:

      ご質問ありがとうございます。本経済モデルを利用して総便益を算定する際の課題(P.15の記載以外)を以下に記載します。

      1)時間選好率(割引率)の設定について
      本経済モデルでも時間選好率(割引率)をパラメータとして利用しており、今回のパイロットスタディでは、治水経済調査マニュアルと同様、4%という値を仮定しました。

      ただし、時間選好率(割引率)は、①個人特性(消費傾向等)や、②地域特性(水害による死亡リスク等)などで、対象地域毎に異なる値を取るものと考えられるため、その代表値をいかに設定するかが現時点の課題の一つとなります。

      2)対象地域外との交易による影響の考慮について
      本経済モデルのフレームに、移出入・輸出入を組み込めていない点が現時点の課題の一つとなります。つまり、水害発生時に対象地域外からの支援が期待できない状況を想定していることになるため、水害の影響および流域対策の便益が過大に出る可能性に留意が必要と考えております。

      3)早期の復旧・復興のための施策の考慮について
      本経済モデルは予防保全型の施策(土地利用規制・堤防整備等)を評価できるよう構築しておりますが、被災後に早期の復旧・復興を図るための施策(水害保険・氾濫水排除等)の評価も可能とするためには、本経済モデルのフレームワークを改良すること(変数の追加等)が現時点での課題の一つとなります。

  2. 山崎 崇徳 より:

    建設技術研究所の山崎崇徳です。
    流域治水に関する新たな評価の視点を取り入れた検討であり、非常に興味深く拝見させていただきました。
    スライド13の対策なし(GRP1,200憶年の減少)の土地利用条件(家屋等の立地の条件)はどのように設定しているのでしょうか?一般家屋、大規模工場、商業施設など、どのような成長を遂げるかで減少幅が変わると思いました。
    また、同じスライドで減少幅がそれほど大きくならないというケースは考えられますでしょうか?その幅がわかれば、土地利用規制の有効性の判断ができると思いました。

    1. 石渡 裕明 より:

      ご質問ありがとうございます。頂戴したご質問につきまして、以下に回答を記載します。

      1)対策なしの土地利用条件の設定について
      対策なしの土地利用条件(家屋等の立地の条件)は、国勢調査や経済センサス等のメッシュデータを基に、家屋・家財や生産施設・設備等の資産分布を設定し、氾濫域内の同資産が被災・損失するものとしております。本経済モデル内において、同資産は経済成長とともに増加(投資量は限界効用や限界生産力で変化)します。

      特に、生産施設・設備は財を生産するための生産要素(財は労働と資本で生産されるものと仮定)となるため、氾濫域内に生産施設・設備が多い場合は、被災した際の生産量・GRPの減少幅が大きくなります。

      2)減少幅がそれほど大きくならないケースについて
      氾濫域内に生産施設・設備の立地が少なければ、洪水発生時のGRPの減少幅は小さくなります。また、氾濫域内の家屋・家財の立地が少ない場合も、洪水発生時の同資産損失を避けられた分の資金を生産施設・設備の投資へ充てることができるため、洪水発生後のGRPの成長停滞の緩和に繋がります。

      上記より、氾濫域内での水害リスクが高い(資産が多く存在)ほど、対策効果が大きくなるものと考えております。

  3. 湧川 勝己 より:

    湧川と申します.
    幾つか質問させてください.
    何故動学的経済モデルを用いなければならないかが大きな疑問です.
    経済成長が見込まれる途上国においては,この種の検討は大きな意味を持つものと思いますが,低経済成長,高齢化が進行している(労働生産人口の減少が見込まれる)我が国おいて,この種の検討を行う意義と目的が良く分かりません.動学モデルでしか解けない流域治水の効果とは何をイメージされているのかお教えください.
    また,結果についてですが,1,000億円クラスのGRPに対して,20億~60億の効果は誤差の範疇だと感じますが,優位なのでしょうか?
    それよりも4.にある復興過程も考慮した被害を期待値化したほうが説得性があるように感じますが如何でしょうか?

    1. 石渡 裕明 より:

      ご質問ありがとうございます。頂戴したご質問につきまして、以下のとおり回答します。

      1)動学モデルで見るべき効果について
      巨大性・同時性を有するカタストロフィックな洪水被害が生起した場合の経済面への長期的影響と、流域治水対策の有無で同影響が緩和されるかを定量的に分析することを目的の一つとし、動学モデルを用いました。

      例えば、大規模水害が生起した場合、生産施設・設備等が多く損失し、復旧までに時間を要して、その間の生産力低下が経済成長の停滞・衰退に繋がる可能性を生みますが、そのような状況を定量的に分析しようとした際には、時間軸を持ったモデルの活用が有効であると考えたためです。

      2)期待値による試算結果の有意性について
      試算結果を「期待値」で見た場合に関しては、各年で見た経済効果は非常に小さいため、今回のパイロットスタディでは流域治水対策が経済成長に効いてくるとは言い切れないです。一方で、50年間の累積で見た場合、流域治水対策が進むことで年々の洪水被害が減少していくため、一定程度の経済効果が見られる結果となっています。

      ただし、本研究は本モデルが流域治水対策の検討ツールとしての可能性があるかを判断するために実施したものであるため、大胆な仮定や多くの課題等を含んでいます。今後のステップで詳細な設定や課題への対応等を行い、深度化検討を行っていくことが必要です。

      3)復興過程も考慮した被害の期待値化について
      ご指摘いただいたとおり、復興過程も含めた分析が重要であると考えています。

      今回のパイロットスタディでは、予防保全型の施策(土地利用規制・堤防整備等)に焦点を充てましたが、災害リスクが低い場合などは、早期の復旧・復興を図るための施策(水害保険・氾濫水排除等)に焦点を充てた方が現実的な場合もあるため、後者の施策も取り込めるようなモデル改良(変数の追加等)が課題の一つと認識しています。