The symposium about river engineering, 2022

近年の洪水災害を踏まえた流域治水を考える

著者

福岡 捷二1

1.中央大学研究開発機構 機構教授

説明資料

コメント (9)
  1. 内田 龍彦 より:

    流域治水に関するこれまでの議論の経緯と解析技術に基づく今後の検討方針の発表ありがとうござました.流域治水の概念はこれまでもあったが,これまでの整備率と想定外力から多くは河川改修が中心となった対策がとられてきたが,整備率のある程度向上と温暖化による外力の急激な増加に加え,観測と解析技術の向上が今後の河川に関する技術革新に繋がっていくことを具体的に示した期待が持てる論文と思います.ご発表資料4頁目にあるように,起こった豪雨に対して対象流域の水収支を観測と解析技術に基づいて明らかにすることがまず重要と理解しました.この解析あるいは現象理解を今後の起こり得る洪水現象に対する対策検討に適用すると思いますが,その際にはどのようなことを考えないといけないのか,あるいは技術的課題についてはどのようなものが考えられますでしょうか?

  2. 福岡 捷二 より:

    まずは起こった大規模な洪水流について観測された降雨分布と洪水水面形を用いて支川群、本川での洪水流解析を行い、河道貯留量等を求め各流域及び全体流域での水収支図を作ります。この段階では流域対策が行われていません。次に、あらかじめ適当と判断し決めていた流域内の適切な空間に対して水を貯め流域対策(貯留)を行なわれた場合について同様の解析を行い、対策の効果を見積もります。対策は、地域にとっても水害軽減になることが望まれ、地域の合意を得るための関係者による協働が重要です。検討が必要な技術的課題は、いくつかありますが雨の時空間分布の違いによる当該支川及び本川に対する効果の検討が重要です。また、市街地の内水氾濫のような小流域における流域治水問題は各地で生じており、この場合は、小河川、下水道、農業用排水路等を流れる洪水流による氾濫解析と減災まちづくりを関係づけた技術検討が必要になります。

    1. 内田 龍彦 より:

      ご回答ありがとうございました.シンポジウムでのご講演も楽しみにしております.よろしくお願いします.

  3. 天野 邦彦 より:

    流域に降った雨量を、如何に安全に、貯留と河道を通した排水で海に流すかということについて、時空間的に定量評価する技術開発をされていると考えております。これは、流域治水を効果的に行う上で必須のものと拝察いたします。
    そのうえで、2点、質問させてください。
    (1)現在実施されている解析では、流域貯留量として計算結果が出ていますが、この中には害のある氾濫(内水)水量も含まれている可能性はありますでしょうか?
    (2)河道貯留量は、河道貯留の総量だと思いますが、例えば鬼怒川の場合、中流部では河道に十分余裕があったわけですが、流下能力バランスが取れていた場合、河道貯留量は洪水ピーク時にもっと大きくなったのではないかと思われます。流下能力バランスがとれた河道だったと仮定した場合の、河道貯留量の増加や、その際の他の量の変化が見ることができると、流域レベルでの洪水処理(いい言葉が見当たらなかったので処理と言います)の向上に向けた河道設計につながると思うのですが、いかがでしょうか?
    初歩的な質問を差し上げて大変恐縮ですが、ご教示いただけますと幸いです。
    よろしくお願いします。

  4. 福岡 捷二 より:

    (1)の質問に対する回答を示します。
    現在の流域貯流量の中には、氾濫水量も含まれていることが十分考えられます。対象流域内の豪雨分布とその量に対し、水面形が測られている二次支川、三次支川の洪水流解析がどの範囲まで行われているかは流域対策にとって重要です。二次支川、三次支川の河道貯流量が計算されている数が多いほど、流域貯流量の中身が寧核になり、流域貯流量に対してどのような対策を行うべきか選択の信頼度が上がります。

    (2)の質問に対する回答を示します。
    上中流部でもっと貯留が起こっていれば、ピーク流量の下流への移送が遅れます。その時に下流では水位がすでに上がっていれば、そこへピーク流量が到達した場合を想定してのご質問と想像します。これについては、具体的に解析して、どのような状態であったのかを調べてみる必要があります。一般に縦断的に、極端な河道断面形の変化がなく、バランスの取れた河道設計をしていれば、洪水の下流への伝播はスムーズに伝わり、ご指摘のようなことが起こり得ないと思いますが、鬼怒川下流部は、縦断的に断面形の変化が大きいので、ご指摘の点については検討しなければなりません。

    貴重なご意見とご指摘ありがとうございました。

  5. 天野 邦彦 より:

    丁寧にご回答いただきましてありがとうございます。
    流域をシステムとしてとらえて、豪雨時の下流への水運搬を河道を破綻させることなく行うための重要なご研究だと考えております。
    重ねてお礼申し上げます。

  6. 中津川 誠 より:

    流域の貯留効果を定量的に評価すべきということに賛成いたします。そのうえで、確認させてください。
    (1)お示しになっている水収支図はマスカーブ(累積値)と理解しますが、水収支は流入と流出のバランスで決まるものかと思います。教科書的に言うと降雨があって遅れて流出が起きる、いわゆる貯留Sと流出Qがループを描くというものです。したがって、貯留効果というのは累積値ではなくて差分値となるかと思いますが、いかがでしょうか?貯留効果の時間的な推移を見て、局面局面でダムなのか河道なのか、さらには流域全体なのかが示されれば興味深いかと思います。
    (2)上記のような考え方でみると、とくに下流地点ではダムや河道より圧倒的に流域全体の効果が大きいのではないかと思います。そのなかでとくに河道貯留にどの程度期待できるものか感触でもよいので示唆いただけると幸いです。河川によっても違うと思うので、別件でご発表いただいている千歳川の例でも結構です。
    (3)ご存じの通り流域の貯留効果を定量的に示すのは大変難しく、それが水文学分野にとって、これまでもこれからも大きな課題であるかと思います。ダムや河道の貯留効果に比べて同じ精度で評価するのは困難ではないかと思いますが、その辺はいかがお考えでしょうか?あるいはその辺を克服するために水文分野へ期待する点についてコメントいただけると幸いです。

    1. 福岡 捷二 より:

      示唆に富むご意見及び、河川流域の貯留現象に対する本質的な議論をいただき、ありがとうございます。以下に回答いたします

      (1) のご意見に回答いたします。

      流域の各貯留施設の有効性は、個々の施設への流入量と流出量の差から検討するべきとのご意見には同意致します。本研究は、洪水流の観測水位の時空間分布に基づいて、これを説明するように、平面に次元の運動方程式を解いて流域内の支川群の各地点の流量ハイドログラフを求め、これより貯留量の時空間分布を求めることを行っています。しかし、流域上流では、小河川群の水位分布は得られていないために、分割した小流域の降雨分布を用い貯留関数法または、タンクモデルを用いて流量ハイドログラフを得ており、それを時空間積分して洪水陵墓ルームの時間分布を得ている。したがって、その算定精度は低い。一方、二次支川、一次支川、本川から得られる各地点の流量ハイドログラフは、多地点の観測水位に基づく洪水流解析を行っており、流量ハイドログラフはかなりの精度で得られています。このように本研究の段階では、流域内の流量意算定制度の違いのために、まずは、水収支図として各時間に対する洪水ボリュウーム量の累積値より水収支図として検討しています。流域内の上流域も、洪水流慧さん画家の湯女ぐらいの水位データが得られれば、ご指摘のような貯留施設ごとの有効性の議論が可能になります。
      現段階における水収支図は、流域内の水防関係者等が、まずは、流域内の豪雨に対して、流域のどこに、いつの時点で、どのような状態で、どれくらいの水量が存在しているかを知り、今後の対応策を考える基盤情報を与えるとともに、対応策が考えている小流域や下流河道にどの程度有効になるかを図上で比較検討することが可能です。また、堤防の破堤等による氾濫量の影響評価には、洪水ボリュームが重要であり、その意味でも累積値で検討することも極めて重要です。
      しかし、現段階でも一次支川や、本川の貯留量の見積もり精度は十分高いので、ご指摘のように、河道や施設での貯留の有効性を流出入の差分値を用いた時間的な推移から検討することは現段階でも計算されており検討を進めます。 

      (2) のご意見に回答します。
      豪雨時の貯留量は圧倒的に流域が大きいというご意見はその通りです。そのため流域、各小流域群からの流出の状況を知ることは必要なことです。一方、流域上流山地では、水位の観測値がなく流出現象の理解が十分ではなく、豪雨時には氾濫も生じていると考えられます。したがって、二次支川や、三次支川からなる小流域群の水位をできるだけ多く測ることにより、河道としての洪水解析ができる範囲を大きくして、流域の貯留解析不可能範囲をできるだけ小さくすることが重要です。河道やダムでの貯留量の割合が流域での貯留量に比して小さいことは事実ですが、豪雨は、必ず洪水となって河川へ流出し、災害を起こす原因となります。流域での貯留とともに河川等治水施設での貯留が洪水量の現象波形の変形となって災害の軽減に役立ちます。流域と河川の貯留量の大小関係は、自然が決めていることで本質的な問題ではありません。如何に河道内、堤内地の氾濫にならないように流域全体で対応するかであると思います。

      (3) のご意見に回答します。
      「流域の貯留効果を定量的に評価することは大変難しく、それが水文学にと言って、これまでもこれからも大きな課題である。ダムや河道の貯留効果と同じ精度で比較するのは困難であると思う。」このご意見に異論はありません。「その辺を克服するために、水文分野へ期待することをコメントしいただけると幸いです。」
      大きな視点でのご意見であり、水工学にとどまらず他の分野とも関連を持ちながらしっかり検討するべき課題です。私としても、いただいたコメントは我が意を得たとの思いで、大きな力を与えていただいたことに感謝申し上げます。ここでは水文分野へのコメントと言うよりも、私のこの研究を進めるにあたって考えていることを述べることで、回答とさせていただきます。
      「流域治水」にはいろいろな課題がありますが、ここで論じている「流域の水収支図」の活用は、水文学と河川工学の「協働」の重要性を示しています。これまでは流域の降雨流出、洪水解析は上流から決まってくる水文・水理現象であるとの想定の下に検討が行われてきました。私が言いたいことは、対象流域について上流からも、下流からも、水文学と河川工学の両面からの検討が、流域で起こっている水文・水理現象の理解をより深め、「流域の治水や環境問題の解明」につながると考えています。流域の広い範囲で川をなしているところにできるだけ多くの水位計(危機管理型水位計や、より簡易な水位計)を設置し、洪水解析ができるようにすることは、上流域の水の出方に、降雨分布だけでなく洪水としての直接水位観測の情報を入れることが出来ます。本講演で示しているように、流域で川をなしている小支川群、大支川群、本川の水位観測情報から洪水解析を行い、より上流域の流出解析の範囲を縮小することで、各小流域での信頼度の高い解析を可能にし、結果として流域全体の洪水流解析の信頼度を上げることになればと考えています。このことはまた、今後、気象工学、水文学の立場から降雨流出予測を行っている研究グループに対し、地上で広く、信頼度の高い洪水水位データを提供することになり、予測解析の信頼度を高めることに繋がります。広い範囲の洪水位の観測、解析は、流域からの土砂等の流出評価についても重要なツールを与えることになり、「流域水収支図」とともに「流域土砂収支図」の検討にもつながると考えています。
      「流域治水」は、河川の上流域から下流まで、支川群から本川まで、洪水流から氾濫流までを包含しており、そこには治水と環境、洪水と土砂問題等広い課題を含みます。流域の人々の生活と住み方、自然の在り方に密接に関係します。天空からの解析と地上での観測・解析を有機的につなげていく地道な努力が今から必要です。私たち水工学に関わる研究者、技術者にとって、社会に対する責任の一端を担って挑戦に値する重要な検討の場です。この議論を契機に、活発な議論が行われることを心から期待しています。

  7. 中津川 誠 より:

    シンポジウム終了後にもかかわらずご丁寧な回答ありがとうございました。流域貯留量の定量的評価の重要性をご理解いただき、意を強くしました。ご指摘の通り、流域治水については水工学分野のみならず気象学、農学、林学など連携して取り組んでいくべき重要かつ総合的な課題と再認識しました。今後ともよろしくお願いいたします。