特定課題オーガナイズドセッション1:水災害多発時代の河川技術のあり方の特設ページです.
OS1に関する総合的なご意見,ご質問は本ページ下部のコメントにてお願いいたします.
基調講演や話題提供等の個別プログラムへのご意見は各プログラムのリンク先のページのコメントにてお願いいたします.

趣旨

2024年,土木学会では「これからの流域治水の進め方 『流域全体における水収支の把握と領域の垣根を越えた協働で進める流域治水~流域内の水量バランスを全住民が知り、考え、行動するために~』」を提言した.国土交通省では,既に顕在化しつつある気候変動への適応やカーボンニュートラル,ネイチャーポジティブの実現など様々な社会情勢を踏まえ,水管理・国土保全行政を流域治水から流域総合水管理への展開を進めている.

そして,頻発・激甚化する水災害や科学技術の進展に伴い,河川計画や河川構造物の設計・施工は転換期を迎えている.当OSでは,改めて河川技術のあり方を見つめ直す.

学からは福岡捷二教授から招待論文を中心とした河川技術のこれまでとこれからについて発表いただく.官からは計画,設計・施工,管理,技術研究開発それぞれの観点から,今後目指していくこと,その中で河川技術に求められるものを意見発表し,パネルディスカッションにより「水災害多発時代の河川技術のあり方」について参加者を含めて理解を深める.

プログラム

オーガナイザー

名古屋大学教授 戸田 祐嗣(総合司会)
国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 河川研究室長 瀬﨑 智之
国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 河川情報企画室長 久保 宜之

プログラム

1.開会・趣旨説明

 名古屋大学教授 戸田 祐嗣

2.意見発表

 (1) 「時代の要請に応える河川技術のこれまでとこれから
    中央大学研究開発機構教授 福岡 捷二

 (2) 「水災害による死者数等を一刻も早く減らすための技術、研究の実装の必要性
    国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 河川計画調整室長 小澤 盛生

 (3) 「河道と堤防の構造・設計の実際
     国土交通省 水管理・国土保全局 治水課 流域減災推進室長 石田 和也

 (4) 「河川技術の研究開発リクワイヤメントの明確化
    国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 河川研究室長 瀬﨑 智之

3.パネルディスカッション「水災害多発時代の河川技術のあり方」
4.閉会

OS1:水災害多発時代の河川技術のあり方” に対して9件のコメントがあります。

  1. 久保 宜之 より:

    オーガナイザーからお知らせいたします。
    本日は会場やWEB参加者からの質問をリアルタイムにお受けする時間はとれない見込みです。

    つきましては、こちらで積極的にご質問を書き込みください。
    その際、どの登壇者への質問か(すべての登壇者に求めるものか)などが分かるようにしていただければ幸いです。

    なお、本日使用した各意見発表の資料については追ってこちらに掲載いたします。

    1. 久保 宜之 より:

      各意見発表者の資料については、上記のプログラムの発表者毎のテーマをそれぞれクリックしていただければ閲覧可能となっておりますので、お知らせいたします。

  2. 安田 吾郎 より:

    石田室長から河川施設等構造令について、河川法第13条2項を根拠とすることをはじめとする説明を頂きました。同条1項で「河川管理施設・・・は、・・・水位、流量、地形、地質その他の河川の状況及び自重、水圧その他の予想される荷重を考慮した安全な構造のものでなければならない」とされているわけですが。ここで何をもって「安全な構造」するかということが曖昧模糊としたままになっているのが日本の現状のように思います。海外では、FN図(縦軸が破壊・故障等の生起確率、横軸がその破壊・故障により生じる被害量[死者数を用いることが一般])を用い、さらに許容可能リスク基準(例えば、想定死者1人なら10のマイナス3乗未満、想定死者10人なら10のマイナス4乗未満までとか)を定めて、そのリスクを許容可能か否かを評価する手法が、一般的になってきています(例えば、以下の米国FEMAのダム安全ガイドライン)。
    https://www.fema.gov/sites/default/files/2020-08/fema_dam-safety_risk-management_P-1025.pdf
    具体例で考えて見ると、例えば、人口密集地域の天井河川の水門と、後背地は田んぼが拡がっているだけの水門とで、水門の不稼働確率に関して同一のリスクまでを許容するのは、許容可能リスクの考え方からすると不合理で、人口密集地域の天井河川の水門では相応に高い信頼度を確保すべきとなります。また、本日瀬崎室長の発表で、FTAを使って民間提案の新技術の評価をする話がありましたが、許容可能リスクの考え方を取り入れれば、例えば、東京・荒川の堤防で使うのはリスクが高くてダメだが、田舎の川で試験的にやってみるのはOKといった判断も普通に行い得るようになります(例えば、下流に人がほとんど住んでいないことを理由に、ダムの本堤にゴム堰を使っている国もあります)。河川法第13条1項に基づく「安全な構造」を、許容可能リスクを取り入れた考え方に再定義していくといったことができれば、国際的なトレンドにも合致した、より合理的な設計や施策判断が行いやすくなると思います。

  3. 原田 守啓 より:

    福岡先生がOS1で示された「超過洪水(時の現象)を見越した河道ー堤防の一体設計」のご提案に触発されて申し上げます.

    超過洪水への対応として,全エネルギー水頭や複断面蛇行流れの氾濫流の特徴等を理解した上での堤防の強化(余裕高を含む)の必要性を提示されたのに対して,河川計画課,治水課の両室長からかなり踏み込んだ議論が提示されたことに,いち河川技術者として強い印象を受けました.

    個人的にとりわけ印象的であったのは,河川計画課の小澤室長のプレゼンの中で,「河道でもっと沢山洪水を流したい」という論点の中にひっそりと「必要高水敷幅の見直し」というワードが入っていたことです.

    河道で受け止められる流量を増やしたいという切実な要請に対して,堤間幅,高水敷幅を固定したままでは,低水路を下に掘り下げるしかなく,そこにはおのずと限界があります.
    2022年の河川技術論文集で,「環境上の限界河道」のような議論を提起したのですが,「その河川が本来有している流量や土砂のダイナミズム等の河川全体の自然の営み(多自然川づくり基本指針より)」による変動が許容される低水路を拡大することが,治水と環境が調和した形で河積を増やす一つの方策であることを提案しております.(むろん,単純に低水路幅を広げればよいということではなく,その河道が人為的な維持管理行為を加えながら維持可能であることが前提とはなります.)

    このとき,制約となるのが,「必要高水敷幅」で,河川管理者,河川技術者の中には,20年以上前に示された河道計画検討の手引きに示された必要高水敷幅について,突っ込んだ議論をすることなく採用している河川が多くあるように思われます.
    必要高水敷幅を確保することなく河道設定がされている例として,例えば北陸の常願寺川では,広い高水敷を設けることによって河床形態が激変することを避けるために,高水敷幅は狭く引いた位置で堤防を守り,その前面に巨石付き盛土砂州でバッファーを設けています.九州の遠賀川では低水護岸を排した船底型河道が採用されています.どちらの事例も,福岡先生が指導された事例と伺っていますが,普段の河川環境と洪水時の安全性が両立された河道デザインの例であると考えられます.高水敷も護岸も堤防を守るための施設であり,「洪水時に堤防がきちんと守られれば良い」という本質的な目的にたって河道の姿を考えなおす時期がきていると考えます.

    つまり,福岡先生がご提案されているように,超過洪水時に起こる現象を突き詰めて,河道と(河道の平面形を規定する)堤防をデザインしていくと,おのずと高水敷の在り方にも議論は及び,OS2で議論されていた「治水と環境が一体となった河道設計手法の構築」にもつながっていくものと考えます.

    最後に感想めいたものになりますが,ひと昔前ではタブー視されていた?堤防余裕高の在り方,構造令の見直しまで言及された点について,河川管理に河川技術を取り入れながら進展させる,という強い覚悟を感じました.この議論により多くの河川管理者・技術者・研究者が参画し,この歩みをより強いものにしていければと思いますし,河川部会でも問題意識を共有して取り組んでいければと思います.

    (論旨がずれますが,流域水収支図を作ってみたい,と思っている技術者・研究者も沢山おりますので,今後普及していくと考えています.)

  4. 石田 和也 より:

    安田様)
    ご意見ありがとうございます。
    構造令の18条1項は、計画高水位以下の流水の通常の作用に対して安全な構造とすることを規定しています。
    現在の構造令を起点に考えれば、安田様のご指摘にあるFN図の縦軸にある破壊・故障等の生起確率は、計画高水位あるいは計画高水流量を考慮した上で、福岡先生の招待論文にあるように、超過洪水流に対する河道の安全性の考え方を整理していく必要があるものと考えます。
    なお、当日十分なご説明ができませんでしたが、
    今後期待される技術として、
    ・流域の被害最小化の観点からのリスク評価
    ・施設能力を超える洪水に対して堤防の求める機能の明確化
    をあげさせていただきました。
    流域のリスクを踏まえた被害最小化については、社会的な合意、特に流域の利害調整などの課題があります。
    流域治水の実践では避けては通れない課題です。引き続きよろしくお願いいたします。

    原田様)
    河道計画・設計に関するご意見、ありがとうございます。
    原田様ご指摘のとおり、全国で河川本来有している流量や土砂のダナミズム等、河川全体の自然の営みによる変動が許容される川づくりに関する取組みが、全国で進行しています。
    こうした先進的な取組みをしっかり評価しつつ、「治水か環境か」ではなく、「治水も環境も」の川づくりを推進していくため、河道計画・設計を産学官で進化させていきたいと考えます。

    1. 安田 吾郎 より:

      石田様,返信ありがとうございます。「堤防」についての「安全な構造」はお書き頂いた通り,構造令18条で「計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造」と書かれているわけですが,それでは,河川水位が計画洪水位に至った時点で,どれだけの確率で決壊するまでが許されるのか(ゼロなのか,10のマイナス何乗までか等)はっきりしていないのが「曖昧模糊」と述べた所以です。超過洪水の世界の話ももちろんありますが,計画で「安全な構造」にする範囲の中でも,本来は確率論的にどう考えるのかという世界があるわけです。もちろん,既存の法律やこれまでの判例の積み重ねもあり,法令解釈権を持っている方が軽々なことは言えないのはよくわかるわけですが,そういった部分も含めて考えないと,リスクベース分析を活用した国際的な計画論のトレンドとの隙間は埋まらず,合理的な施設設計が進みにくくなる問題も解決しないように思われます。なお,構造令では第18条の堤防に係るものだけでなく,7か所で「安全な構造」という言葉がでてきます(親の河川法13条1項を受けて)。堤防だけでなく,他の河川構造物等に関しても同じ議論があります。

  5. 小澤 盛生 より:

    原田様)
    コメントを頂きましてありがとうございます。
    福岡先生の招待論文の6.おわりに、に記載がある4つの執筆理由を踏まえ、
    「新たな河川技術」を官学が一緒に考えて現場に実装していく一助になればと思い、意見発表させて頂きました。
    多少、乱暴且つ稚拙な表現もあったと思いますが、聴講者へのメッセージ性を重視した表現での意見発表と致しました。
    この議論をきっかけに、官学の連携をより強固なものにしていければと思います。

  6. 石川 忠晴 より:

    パネラーの方々は「超過洪水」という言葉を度々使用されましたが、実際の超過洪水はHWLをわずかに超えるものから、越水により堤防決壊が生じ氾濫原(民地)に大きな被害をもたらすものまで、大小様々です。今回のOS1では余裕高を含めた河道設計の議論が主体であり、比較的小規模の超過洪水が念頭に置かれているようでした。しかし気候変動が顕在化しつつある今日、人々の命を守るという目的からすれば、「大規模な超過洪水」に対する議論が必要ではないでしょうか。
    元建設省技監の近藤徹氏は2005年の社会資本整備審議会に寄稿した文の中で「目標治水安全度に未来永劫到達できないと思われる河川が多数あり、“守るべきところ”と“氾濫をある程度許容できるところ”の選別が必要になる」と書いています。また2007年に衆議院で「河川整備基本方針に則った河川はいつ完成するのか?」という質問があり、政府は「そういう計算をしたことがない」と回答しています。
    一方、国土強靭化に関する文書には「戦後最大規模洪水に対応する河道を2045年に実現する」と書かれていますが、2045年は世界平均気温が2℃上昇に達すると言われている時期であり、その頃には降雨量が1.1倍、流量は1.2倍になると言われています。それに対応して国交省は基本高水の改定を進めていますが、その値は平均して戦後最大流量の約1.5倍に達します。つまり“現実の河道容量”と“机上の計画の想定外力”の乖離がさらに甚だしくなり、計画は立派でも、現実世界では大規模な超過洪水の発生する機会が増大し続けると思われます。
    以上を総合すると、大規模な超過洪水への対策には、費用・予算の観点も含めた治水事業の速度論が重要となり、それとリンクした河川技術のrequirementの議論が不可欠と言えるでしょう。そこで元国交省技監の清治真人氏は、治水計画および河川技術の考え方のパラダイムシフトが差し迫った課題になるとして、「計画的氾濫」による河道流量低減に関して数編の論文を発表しておられます。今回のOS1では国交省の責任ある立場の方々がパネラーになっているにも拘らず、近藤氏や清治氏の意見を反映した議論が全くなされなかったのは残念でなりません。
    大規模な超過洪水は“氾濫させざるを得ない”わけですから、河道設計の問題というよりも、“河道容量を超える水量を、河道のどこから安全に溢水させ、氾濫原のどこをどのように安全に通すか”という「計画的氾濫」の問題を考えねばならないでしょう。氾濫原はもともと大規模超過洪水の通り道であり、いわば大出水時の河道であったからです。国交省は近年「貯留機能保全区域の指定(2022)」や「水害常襲地域における流域治水対策の推進(2024)」などの堤内民地への意図的氾濫に関する施策を公表していますが、空間スケールが小さく、大規模な超過洪水に対処するものとは言えません。今後の超過洪水対策には、河道と氾濫原(元来の河川)を一体的に考える河川技術の議論が望まれます。
    ところで、大規模な河道を造れなかった江戸時代の河川技術者は、大局的地形と土地利用を俯瞰して、河道と氾濫原を一体的に捉えた超過洪水処理に腐心しました。それこそが流域治水における河川技術の本質であったと思います。気候変動により自然外力が再び土木力を上回るであろう“これからの時代”には、超過洪水が頻繁に発生した江戸時代と同様に、「計画的氾濫」と「氾濫流処理」に関する河川技術の発展が急務であると思われます。この点についてOS1におけるパネラーとして国交省から参加した御三方(小澤盛夫氏、石田和也氏、瀬崎智之氏)あるいはコーディネータの久保宜之氏の御意見を頂戴したいと存じます。
    なお私自身は「超過洪水対策」、「計画的氾濫」、「氾濫流制御」などをkeywordとする論文を国内外で10数編発表していますが、それらを総合した意見は以下の2編にまとめています。自分の著作を宣伝するつもりは毛頭ありませんが、「国民の生命・財産を守るためのこれからの河川技術」を考える上で参考になるかもしれないと考えております。
     石川忠晴:河川管理者に望まれる意識改革について~流域治水への転換にあたって、科学、岩波書店、Vol.91、No.7、pp.688-703、2021.
     石川忠晴:江戸時代の治水思想が流域治水プロジェクトの計画と実践に与えるヒントについて、土木学会論文集D3(土木計画学)、Vol.78、No.6、pp.Ⅱ_509-Ⅱ_521、2022.
    なお、国交省の御三方(小澤盛夫氏、石田和也氏、瀬崎智之氏)の個々の発表についてのコメントは、特設サイトの各人の部分に述べておりますが、その中にも上記に関係する意見を述べておりますので、合わせて参照していただければ幸いに存じます。ご回答はここでも各人のサイトでも結構です。

    1. 久保 宜之 より:

      ご意見ありがとうございます。
      オーガナイザーの立場からご意見に対し、お答え申し上げたいと思います。個別発表へのご意見はそれぞれの意見発表者からお答え申し上げます。

      ご指摘のとおり、洪水現象は、河川等の施設整備の水準に合わせた規模で発生する訳ではなく、今年、来年に計画規模や想定最大規模の洪水が発生してもおかしくありません。このため、様々な規模のケースを議論することは重要です。また、気候変動による激甚化・頻発化により待ったなしの状況に置かれていることは小澤室長の発表でも触れさせていただいたところです。

      まず、国土交通省ととして流域治水を標榜する中でも、水防法の世界に頼る前に、河川法の世界でまだまだやるべきことがあることを主張される福岡教授の意見発表にお応えすることに時間を割くようオーガナイザーとして意見発表者にお願いをしました。
      大規模氾濫への対応についての言及が足りないように感じられたものと思われますが、我々としても決してそれらを重要視していない訳ではなく、大規模氾濫減災協議会制度や洪水浸水想定区域の想定最大規模降雨による指定、洪水予報をはじめ防災気象情報の改善や「伝え手」等とのリスクコミュニケーションに努めているところです。
      一方で、限られた時間の中で総花的な施策紹介にならないよう意見発表者に配慮を要請した結果ですので、議論の展開が不十分であることの責は我々オーガナイザーにあります。
      とはいえ、今回は「大雨・洪水時に犠牲者を出さない覚悟」をもって真剣に挑む姿勢を聴衆の特に若手の皆さんにも伝えたいという思いでセッションを組ませていただきましたので、そういう心が多くの方に伝わっていればと期待するところです。ご指摘のテーマについても引き続き議論していくべき課題と認識しております。

      計画的氾濫についてご意見をいただきました。様々な観点で勉強・検討をしていかなければならないと考えます。一方で、地先の自治体や住民などとの合意形成を経ずに安易に是非を述べるべきではないと考えています。
      今回のセッションでは、関連する話題として、河道と流域(氾濫原を含む広義の流域)を一体的に考えるための手法の1つとして流域水収支解析やこれに基づく流域水収支図などの河川技術の議論をさせていただきました。また、全エネルギー水頭による河道・堤防の一体的検討、一体的設計についても発想の展開が可能となる技術水準となりつつあり、引き続き学を筆頭に、産学官が連携していくべき重要な課題であると認識していることはパネルディスカッションでもお伝えできたのではないかと考えております。

      ご紹介いただいた著書等についても確認させていただこうと思います。
      ご意見ありがとうございました。

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