水災害による死者数等を一刻も早く減らすための技術、研究の実装の必要性” に対して3件のコメントがあります。

  1. 石川 忠晴 より:

     小澤さんの御発表は、私がOS-1(全体)へのページで述べた、今後の「大規模な超過洪水」への対策と関係が深いので、そこでの私のコメントと合わせてご回答いただければ有難いです。以下では小澤さん個人の御発表のPDFの各ページ(文中ではPage #と記入)に対する疑問とコメントを述べさせていただきます。
    Page 3の上段の図には「2040~2050年頃には、どのシナリオでも世界の平均気温が2℃程度上昇」とあります。地球温暖化への対応が考えられた当初は、パリ協定批准国が協定内容を遵守するとの仮定から、“21世紀末”に地球平均気温が2℃上昇するとしたRCP2.6シナリオ(当時)を前提に基本高水改定が計画されたと思います。しかし現在の趨勢からすると4℃上昇(RCP8.5シナリオ)に近くなる恐れが高まってきたことから、“2040~2050年”に2℃上昇という説明に切り替えられたようです。このような説明上の転換は奇妙だと思います。“21世紀末”の状況に対応したいのなら、時間をずらして数字合わせをするよりも、時間を固定して想定される状況に対しての河川計画論および河川技術論を検討すべきではないでしょうか。つまり「大規模な超過洪水への対策」が真剣に議論されるべきだと思います。
    Page 4では国土強靭化が“守りの強化の救世主”のように書かれていますが、以前の強靭化計画に関する資料では、長期目標が「2045年までに戦後最大規模洪水を流せるようにする」としています。一方Page 5に赤枠で囲われた表では、100%目標達成をR62年(2080年)としています。この数値の根拠は何ですか?予算の裏付けはあるのでしょうか・・・・またPage 5赤枠内の表で対象とされている“必要な流下能力(約1500万m3/s・km)”の意味が不明です。改定後の新しい河川整備基本方針における計画流量の109河川合計の値でしょうか、あるいは流域治水2.0の戦後最大規模洪水の1.2倍等に対応しているのでしょうか?・・・・新しい基本整備基本方針に対応する治水施設を2080年までに達成するのはかなり難しいのではありませんか?
    Page 8では「~河道配分を限界まで増やしたい~」と書かれています。しかしインターネットに公開されている各河川の基本高水改定の資料の最後近くの「河道計画」の部分を見ると、“多くの河川でHWL引き上げや引堤はかなり苦しい”と書かれているので、「河道掘削」に頼る分が大きくなりそうです。その場合に2つの問題が生じると思われます。第一は工事予算の問題です。ご存じのように、河道掘削は“掘削した分しか河道断面積が増加しない”ので、築堤が主体であった時代に比較して工事効率(河道断面積増加量/土工量)が大幅に減少するでしょう。年度当初の国家予算に対する治水予算の比率は、20世紀末には2.5%でしたが、現在は1%以下になっています。予定通りの河積増大は予算的に可能なのでしょうか?・・・・第二の問題は“河川環境との両立”です。現在でも我が国の河川(特に一級河川)は自然状態からかけ離れた人工的河道になっていますが、計画高水改定による河床掘削は、さらに自然環境を損なう恐れがないでしょうか?
    Page 9の図面の意味がわからないのですが、斜めの黄色矢印に書かれていることは“2℃上昇に合わせて改定された基本高水に対応する河川改修に100年程度はかかる”という意味ですね。この100年という数字はどのように算出されたものですか。Page 3で書かれているR62年(2080年)は55年後ですから矛盾することはありませんか?・・・・page 3の上の図によれば2℃上昇は2040~2050年頃(20年後)でしたから“対策のスピード”は確かに気候変動に追いつかないわけですが、そのギャップはどのように埋める予定ですか?・・・・また、Page 3の図によれば今世紀末には4℃上昇もあり得るわけですが、その場合はどのようにする予定ですか?・・・・Page 9の図の右に赤字で書かれている「超過洪水対応」の具体的意味がわかりません。・・・・OS-1(全体)に対するコメントに書かせていただいたように、大規模な超過洪水では河道から氾濫原への溢水が発生するはずですが、Page 9右の赤字の「被害を出さない、被害を減らす対策」とはどういったことをお考えですか?
    Page 10では「HWL以上も含めて堤防天端まで河道の器を目一杯使い尽くして、出来るだけ大きな洪水を河道で流下させたい」とあります。このことは石田和也氏が述べている構造令の余裕高に関する規定についてのPDFに対してコメントしているので、合わせてご回答いただけると有難いです。

    以上、小澤さんのPDFの中の矛盾点を主に指摘しました。これを「揚げ足取り」と捉えないでいただきたい。私は一応「建設省OB」ですから、国交省ができるだけ矛盾のない形の施策を社会に発信することを望んでいるのです。河川技術シンポジウム特設サイトの中の議論を“反国交省的環境論者”や“マスコミ”や“財務省”が目を光らせることはないと思いますが、万が一見つかった場合に食いつかれそうな大きな矛盾については早めに解消していただきたいと考え、老婆心ながらコメント申し上げました。

    1. 小澤 盛生 より:

      <全体について>
       ご指摘、ご提案、ご助言、いろいろとありがとうございます。計画的な氾濫も含め、先生のこれまでのご発表等もいくつか拝見させて頂いております。
       これまでも様々な方々との対話や意見交換を通じて、軌道修正や新たな施策展開をしてきたと思っておりますが、死者、被害を一刻も早く減らすため手法を、時間軸、技術、コスト、社会の受容(インセンティブ含む)など様々な観点から検討していかなければと思っています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

      <個別の事実確認について>
       ●Page 3
       →温暖化のシナリオについて、2℃上昇の世界がいつ頃やってくると想定されているのかを伝えたかったので、このような表現を致しました。時間軸を意識することは重要と思っています。
       ●Page 4
       →国土強靭化の指標について、約1500万m3/s・kmは、流域治水プロジェクト2.0 (現行整備計画の降雨の1.1倍等)に対応した全国の整備量であり、予算は、現行規模の予算(国土強靭化予算を含む)が継続したと仮定して、全国値として試算しています。つまり、基本方針のメニューの全てが2080年までに完了するという試算結果を示したものではありません。
       ●Page 8
       →福岡先生の発表が河道を中心としたものでしたので、ここでは、主に河道への期待について記載しました。ご指摘のような課題を解決することも求められると思っています。
       ●Page 9
       →100年オーダーとの記載については、Page 4の試算結果を踏まえて、基本方針のメニューの完了までの期間として100年オーダーとの記載をしました。超過洪水対応は、これから検討していくものですが、Page 10はその一部でもあります。

  2. 石川 忠晴 より:

    小澤さんへ:
     石川です。お忙しいところご返信を有難うございました。たびたびで恐縮ですがこれが最後のコメントです。今度は短いです。
     <個別の事実確認について>の内容は理解しました。しかし私の前回のコメントは、それらの間の矛盾についてでした。時間関係の矛盾の解消は早急に対処すべきことだと思います。国交省がwebsiteに公表している資料には、他にも種々の矛盾があります。一例として、流域治水2.0に関するPageには、「気候変動化においても、目標とする治水安全度を現行の計画(流域治水1.0)と同じ時期までに達成する」とあり、事業実施速度を1.2倍とする図が添付されています。財務省が1.2倍の予算を付けてくれればいいですが、(たぶん)そうはいかないのではありませんか。
     流域治水1.0で目標とされた“戦後最大規模洪水への対応”は、国土強靭化では2045年(今から20年後)とされていました。しかし小澤さんの今回の回答ではR62年(2080年=55年後)になり、だいぶ余裕が出て“それらしくなりました”。誤解のないように再度申し上げますが、私は国交省の公開資料の矛盾を指摘して楽しんでいるわけではありません。建設省OBとして、公表資料に関する種々の矛盾を早く解消して欲しいと願っているのです。(ご希望があれば、他にどのような矛盾があるかを記した講演会資料をお送りできますが、どうしましょう。)
     6月30日のA新聞朝刊には「中小河川の浸水想定の遅れ」が指摘されていましたが、治水事業進捗の時間関係に関するマスコミの認識は、今のところ、このような些末な事柄のレベルに留まっています。しかし彼らが“より大きな時間的問題”に気付いたらどうなるか心配でなりません。あるいは2007年の国会質問のようなことを野党が(本気で)考えたらどうでなるでしょう。「治水は百年の計」と言われます。ご自身の在職残余期間が10年程度であるとしても、河川計画調整室長には、100年オーダの治水事業に関する矛盾のないimaginationが望まれると思います。

    石川忠晴

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