The symposium about river engineering, 2022

河川管理施設(樋門・水門)の新たな管理手法について

著者

渡邊 武志1,北野 和徳1,佐藤 浩一1,大瀧 諭2,小原 大輔2,佐々木 雄治3,平嶋 賢治3,恩藤 真3

1.パシフィックコンサルタンツ株式会社,2.日本工営株式会社,3.一般社団法人流域水管理研究所

説明資料

コメント (3)
  1. 諏訪 義雄 より:

    以下,質問ではなくコメントです(回答は必須でありません).

    1.河川管理施設への性能設計の適⽤について

    新設構造物の設計手法が必ず上位概念であり,既設構造物の評価は新設構造物の設計方法を適用することですべて解決できるかのような「設計」至上主義,「性能設計」至上主義とも見える論理展開に強い違和感を覚えます.
    河川構造物の被災は,①「設計超過外力にさらされること」,②「設計時とは異なる状態に置かれること」,③「設計時に知らなかったメカニズム」によって発生します.また,自身が被災・変形することによって致命的な構造物被災や一般被害の拡大を抑止する構造物もあります(根固工,低水護岸,水制等).
    河川構造物の被災は,材料劣化に代表される性能劣化によって起きているのではありません.
    既設構造物の評価や(強化・補強による長寿命化等の)対策は,調査・施工・(予算措置や用地、関係者の理解を得る等技術以外の)諸々の制約とも深く関係しあうものであり,新設構造物よりもはるかに難しいものです.「設計」手法さえあれば解決するという生易しいものではないと考えるべきでしょう.

    アカデミックな思考から発想される「性能設計」を現場に適用するという1方向の研究が社会に貢献するという問題設定・論理設定にも違和感を持ちます.
    「性能設計」は,「性能」という用語で汎用性・一般性をもたせようとしているようですが,具体性を伴わない一般論・抽象論は,現場を相手にしている人間,現場から考える人間にとってはわかりにくく,まわりくどく,自分が直面している現象との対比がわからなくなります.
    その結果,技術者や管理者に関心や好奇心を持ちにくくさせ,現場技術者が自らの頭で「考える」ことを促進する材料になっていません.
    そもそも国際標準への対応を志向している「性能設計」そのものが,現場の技術者が具体的な対象について自らの頭で考えること,時代時代の要請に応じて整備された構造物群と洪水の度に変化する自然公物である河道からなるシステムインフラ・ストックインフラである河川を現場の状況に応じて改善する「河川管理」を前提にしていないのかもしれません.
    河川は,洪水の度に変化する自然公物である河道とその時代時代に必要とされた目的を達成するために設置された構造物群によって構成されるシステムインフラです.また,そこに住む人間が働きかけ続けてきた(・ている)結果としてそこに存在しているストックインフラでもあります.
    河川内に存在する構造物は,構造物単独として達成する目的を持ちますが,同時に,河川という自然公物かつシステムインフラ・ストックインフラとの相互作用も持たざるを得ません.樋門だけ取り出してもこれらの相互作用もすべて明らかになったとは言えないでしょう.
    このような状況では,性能設計手続きを整備するだけでは十分でなく,具体的な教訓事例を共有することの方が,現場技術者が自ら考え・対処する力を引き出す上で有効と私は考えます.

    著者らは「仕様設計」としていますが,河川や河川構造物の設計は「経験(にもとづく実績)設計」とする方が適切です.
    破堤し一般被害にまで拡大するこれまでの被災事例を見る限り,「H.W.L.以下の流⽔の作⽤での安全性は確保」については,例外的な事例を除いて,「経験設計」(≒著者らが指摘する「仕様規定」)で満足しているといってよいでしょう.
    例外的な事例についても,②「設計時とは異なる状態に置かれること」,③「設計時に知らなかったメカニズム」と考えられるものです.
    「仕様設計」だからダメで「性能設計」に変えればすべてうまくいくという考え方,「仕様設計」は「性能設計」のみなし規定とのみ位置づける考え方に同意できません.目的に応じて適切な設計方法を使い分けることが重要と考えます.

    ②「設計時とは異なる状態に置かれること」については点検・評価によって把握(著者らの研究はここの提案と位置づけることができる)し,対策を施すことができるようにする必要があります.しかし,古い構造物になればなるほど,精緻な照査手法に依存すればするほど,設計時の資料がないことがネックとなります.また,「状態の変化」は,材料強度の経年劣化と異なり,洪水時の応答によって大きく進行しますので,一定間隔で点検するよりも洪水後の点検・把握が重要でしょう.
    ③「設計時に知らなかったメカニズム」は,性能設計では適用対象の外と扱われている(照査方法の問題と整理しているのかもしれない)と考えられ,対処方法が考えられていないのではないでしょうか.
    ③「設計時に知らなかったメカニズム」対処の肝は,被災の原因・要因調査を③「設計時に知らなかったメカニズム」の発見・整理やそれらを今後に生かすことを意図して実施しまとめることです.枠組みとしては,現行の災害関係の「検討委員会」の類が担う場合が多いが,限られた時間の中で行われる検討では,肝をカバーするように機能しているとはいい難い.報告書を見ると,管理上問題がなかったと説明することが主眼になっており,現行設計手法による解釈で終わる場合がほとんどです.枠組みの問題ではなく,管理者・技術者・研究者の問題意識や何を志向しているのかに依存すると言い換えてよいでしょう.

    システムとしての河川で減災を現実のものとするためには,信頼性を有している「経験設計」を「性能設計」に置き換えてデータの収集・処理に要するエネルギーを増大させることよりも,③「設計時に知らなかったメカニズム」や①「設計超過外力にさらされること」をどのように扱うか検討し,改善に反映させることが重要と考えます.
    ②「設計時と異なる状態に置かれること」についても,性能設計に翻訳することが必須なのではなく,樋門に関しては不同沈下による空洞が発生しやすい,基礎杭を堅固な支持層に求めている函体構造に絞って点検・調査・照査(評価)することが重要です.
    「社会への還元」を優先して考えるならば,設計超過状態に対する構造物の減災の工夫(設計ではない)を充実させることが,従来の取り組みにおいて軽視されている部分です.軽視されてきた理由は,「管理責任を果たす」完全性を求めることを優先するとともに,「設計」法の整理や性能設計への翻訳に固執するあまり,減災の「工夫」に頭を回す余裕が持てなかったためと私は考えています.

    以上より,著者らが提案する仕組みの精緻化にエネルギーを集中するだけでは,一般被害を甘受せざるをえない社会への貢献にはつながらないと私は考えています.
    仮に,施設管理者や河川管理者が,著者らが提案する枠組みを採用し手法の精緻化に向かう場合には,総合的に減災を考える別の主体が必要となると考えます.明治以前の河川を考えても,総合的に減災を考える主体の存在をこれまでに見出すことができないので,新たなチャレンジ,創造になると考えます.

    著者らには,これらの背景を踏まえ,より視野を広げた組み立ての提案を期待します.その際,他分野で提唱されている手法を持ち込む,上意下達で示される方針に則って組み立てるというアプローチだけでなく,河川の一般被害の実態がどのように生じるのかを考察するアプローチも並行して実施することが必須と思います.
    性急に結論付ける・過度に一本化することは社会の改善を遠ざける懸念があると考えます.実際は問題が解決されていないのに,あたかも何一つ問題がないかのような錯覚が一般社会に広がることは避けるべきと考えるからです.
    課題や問題を整理し継承し続けることが重要です.

  2. 諏訪 義雄 より:

    以下,質問ではなくコメントです(回答は必須ではありません)

    2.河川管理施設の新たな管理⼿法の提案について

    函体が常時水位よりも低く函体内をドライにすることも大変という現場もあり,目視点検にのみ頼るのは問題があるという指摘に同意します.不可視部分である函体底面の空洞形成状況の把握について,目視に頼らず状態の変化を把握しようとする発想は有効だと思います.
    その上で以下にコメントです.
    1)計測される「周波数の変化」が有意な変化であるか否か判定できること,が肝の1つと思います. 
    2)これまでの知見でわかっている堤防(上載荷重の増加)に伴う函体の引き込み沈下の知見を,周波数変化との対応で表現・検出できることが肝の2つ目と思います.
    3)最終的には,函体内や函体周辺空洞の確認,対策検討が必要になりますので,周波数変化のご提案はそのつなぎ・前捌きの調査点検手法とするのが適切と思います.
    4)常時微動の観測でも周波数変化の検出が可能と思われます.耐震設計・照査の確認の地震時応答観測も兼ねてデータ収集ができると有効となる可能性があると思いました.
    5)函体下の不同沈下に伴う空洞発生は,基礎杭を堅固な支持層に求めている函体で発生しやすいと推察されますので,基礎杭を堅固な支持層に求めている函体を優先して点検・調査・評価する体制を整備することが重要と思います.このような函体構造は,1973年の樋管・樋門設計指針(案)から1998年の柔構造樋門設計の手引き作成までの間に設計・新設されたものに多いと推測されます.
    現場の樋門安全性確認の進捗に寄与する研究成果が出ることを期待します.

  3. 渡邊 武志 より:

    諏訪様

    ご意見、戴き有難うございます。
    ご意見い戴いた内容で同感です。

    記載事項について
    言葉足らずで、背景や表現について誤解を与えてしまう文章になっており、
    申し訳ございません。

    当日、引き続きご意見を戴ければ幸いです。