The symposium about river engineering, 2022

多摩川中流部における河道の長期変遷(1947年~2020年)から見た低水路河道の安定・不安定と河川植生の相互関係の分析

著者

後藤 勝洋1,寺西 浩三郎2,後藤 岳久1,福岡 捷二1

1.中央大学研究開発機構,2.国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所

説明資料

コメント (7)
  1. 原田 大輔 (土木研究所) より:

    土木研究所の原田と申します。ご発表内容を興味深く読ませていただきました。

    一点質問がございます。11ページを見ると、改修後は32.5-35.0kmの区間で水面勾配が急になり、土砂輸送量が増えて河床低下が起きる、これは理解できます。一方で、35.0-38.0kmの区間は、現況と改修後の水面形はほとんど同じに見えますが、掃流砂と浮遊砂、特に浮遊砂量は顕著に増えています。この理由を教えてください。37kmより上流では土丹も露出していますし、ここで土砂輸送量が増えて侵食が起きれば別の河道管理上の問題が起きるのではないでしょうか。

    また、大丸堰の切り下げ高「2.4m」について、様々な検討の上で決定されたのだとは思いますが、その切り下げ高がどのような考え方に基づいているか、可能な範囲で教えていただければ有り難く思います。

  2. 後藤 勝洋 より:

    ご質問頂きありがとうございます.
    まず,1つ目のご質問については,35.0~38.0km区間において,図にお示ししているような横断平均の水面形で比較しますと現況河道と堰改築後河道の水面形はほぼ同じとなっておりますが,水位の縦横断分布を詳細に分析しますと,堰改築の影響は,38.2km地点に設置されている四谷本宿床止め上流付近まで影響しています.この付近は元々流れが激しく土砂移動も多いことから,大丸用水堰の改築による水位低下の影響により,流砂量がさらに多くなったものと考えられます.本検討の範疇では,京王線(35.1km)~四谷本宿床止め(38.2km)間の河床変動に対する大丸用水堰の改築の影響は小さかったものの,ご指摘の通り,今後の維持管理を検討していく際には,京王線(35.1km)~四谷本宿床止め(38.2km)の区間も含めて河床の安定性等をモニタリングしていく必要があると考えております.

    2つ目のご質問については,整備計画流量に対して流下能力を満足すること,安定な河床となることを条件として検討されております.特に河床の安定に関しては,浅川合流点より上流区間の低水路河床縦断形は,護床工に規定されて安定していることから,大丸用水堰の改築についても同様の考えで検討しております.具体的には,大丸用水堰の上流側の低水路河床高を規定する京王線橋梁(35.1km)の護床工高と,下流側は比較的河床の安定している31km付近の低水路河床高との間を摺り付けるような低水路河床縦断形を考えて,大丸用水堰の改築後の敷高を検討しております.その結果,堰改築後の河道に対して,整備計画流量を超える規模の洪水であった令和元年10月洪水を外力条件として与えると,水位は計画高水位を下回り,かつ,安定的な河道縦横断形を有する砂州河道が形成され得ることを示しています.

    1. 原田 大輔 (土木研究所) より:

      ありがとうございました。2つ目については、良く分かりました。

      1つ目の質問について、現況と改修後の水面形がピッタリ重なっているので疑問に思った次第です。今回の計算方法を詳細に理解しているわけではないのですが、基本的に、水面勾配が急になって摩擦速度が増え、流砂量が増えるのではないのでしょうか。浮遊砂量が1.5倍も増えるには、局所的な流れではなく数km単位で見た水面勾配の変化がなくては起こらないような気もするのですが、今回の解析法に照らして、この点はいかがでしょうか。
      関連して、38km、35km、32.5kmのそれぞれの地点について、掃流砂量はほぼ同じようなので、浮遊砂量について見ると、上流から順に、6(m3/s)、9(m3/s)、10.5(m3/s)といった様子です。そうであれば、本来の狙いである大丸ー京王線間の河床低下に比べ、京王線(35.1km)~四谷本宿床止め(38.2km)間の河床低下はかなり深刻ではないでしょうか。これは浅川合流の影響かとも思いましたが、浅川の合流も計算されているのであれば、合流点付近で急に流砂量が上昇するはずなので、どのようになっているのでしょうか。一方、p.8の図からは、京王線(35.1km)~四谷本宿床止め(38.2km)間の河床は長期的に安定しているようです。

      長くなってしまい申し訳ありません。お時間があればで結構ですので教えていただければ幸いです。

      1. 後藤 勝洋 より:

        原田様,ご質問頂きありがとうございます.

        1つめの質問,堰改築後河道の浮遊砂量の増加については,前回の回答のとおり,堰改築の影響が四谷本宿床止め(38.2km)上流付近まで及んでおり,特に四谷本宿床止め付近では流れと土砂移動が激しいため,堰改築後河道の水面形のわずかな変化が床止め上下流河道での流砂量の増加を及ぼしているものと考えられます.本解析法では,流砂の非平衡性を考慮して掃流砂と浮遊砂を一体的に解析しているため,局所的な流砂量の増加が下流まで伝わっています.ただし,四谷本宿床止め下流の浮遊砂量の絶対量については,この付近の流れの解析精度と関係しており,今後解析精度を詳細に検討していきたいと考えております.

        2つ目の質問,四谷本宿床止め(38.2km)~京王線(35.1km)区間の縦断的な浮遊砂量の増加については,多摩川本川の37~36.6km付近で浅川が合流しているため,浅川から流入した流砂により本川の浮遊砂量が縦断的に増加しています.加えて,四谷本宿床止め(38.2km)~浅川合流(37.0km)区間では,流れと土砂移動が激しく,河床・河岸の洗掘が顕著であることから,浮遊砂量の増加が生じています.一方,河床変動に対しては,流砂量の絶対量よりも増加・減少の縦断的変化が重要であり,これについて現況河道と堰改築後河道で比較すると,四谷本宿床止め(38.2km)~京王線(35.1km)区間の浮遊砂量の縦断的な変化の傾向は概ね同様であり,この結果,河床高の変化量の差異も小さくなっています.このことから,本検討の範疇では,大丸用水堰の改築が四谷本宿床止め~京王線区間の河床低下に及ぼす影響は小さいものと考えています.しかし,当該区間は元々河床変動の激しい区間であるため,今後の維持管理を検討していく際には,当該区間も含めて河床の安定性等をモニタリングしていく必要があると考えております.

        1. 原田 大輔 (土木研究所) より:

          ご回答いただきありがとうございました。
          四谷本宿床止め付近の局所的な洗堀が影響していることが理解できました。
          また、2つ目に関連して、論文では浅川の4km区間も掲載しておられ、ここでも下流に向かうにつれて浮遊砂量が増加しており、浅川の河床低下は著しいようですね。
          今回、このように質問をいたしましたのは、大丸堰の切り下げが上流のどこまで影響するかというのは大変重要と思ったためです。大丸堰は19年の出水でHWLを超えているため、切り下げが必要と思いますが、その影響が徐々に上流に伝播し、京王線橋梁や四谷本宿床止め、浅川の堰などの改修を次々と行う必要が出てくる懸念も、現場にはあろうかと推察しました。そういった観点から(今後の上流側の横断構造物の改築も見据え)、論文の前半ではより上流のまで検討されているのかと思いました。またいろいろと教えてください。

          1. 原田 大輔 (土木研究所) より:

            ちなみに、私、昔卒業論文で、多摩川における横断構造物に挟まれた区間の河道形成について考察したことがあります。よろしければご参考にされてください。
            http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00906/2010/16-0149.pdf

          2. 後藤 勝洋 より:

            原田様,貴重なご指摘を頂きありがとうございます.

            検討としては,大丸用水堰の切下げの影響が上下流にどの程度及ぶかを重要視して分析しておりましたが,論文では堰改築の効果に主眼を置いておりました.ご質問をいただいたことで,論文で抜けていた部分について議論が広がりました.
            情報提供いただいた論文について,ハリエンジュの生育条件の考え方,1999(H11)年の洪水外力に着目している点等,本研究にも相当に参考となります.ありがとうございました.